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そう思った瞬間、またもやおばちゃんが「はいこれも!食べ!」としょうゆ煎餅を山盛り持ってきた。
一気に吐き気を忘れ、なんじゃそりゃ、と脱力する。
なんでしょうゆ煎餅?
どうしていいかわからず、顔をゆがめて煎餅を眺めていると、
「お歳暮。余ったの。おいしいよ」とおばちゃんが手をふきながらやってきた。
おばちゃんは嬉しそうに私の反応を見ている。
それはまるで自分の作った煎餅のように自慢げだった。
その期待を裏切ることができず、どうも……と、とりあえず食べてみる。煎餅を食べるのはとても久しぶりだった。
そして、おどろいた!
ちょうどいいかたさ。しょうゆの香ばしいかおり。
その煎餅はほんとうにおいしく、しぶしぶ食べたはずの私はついにっこりしてしまったほどだった。
おばちゃんはそんな私を見て満足そうに、
「昔からある老舗ね。
高級なものを使ってるわけじゃないけど、お米からしょうゆ、温度、なにもかも、ちいさなことでもひとつ、ひとつ、まいにち確かめながら作ってるの。
丁寧に、それがいちばんだいじね。
うちもそうしてるよ、キャベツも、小麦粉も。」
おばちゃんは言いたいことをすっかり言ってしまうとやきそばを作りにいった。
わたしは、ばりばりと煎餅を噛みながら、やわらかに、しかし確実に、わたしのすりきずがひとつ無くなったのを理解した。
そうか、ここには、要らないものがないんだわ。
おばちゃんが確かめながら選んだ、大事にされているものしかない。
私はそれに囲まれてしまって、まるで仲間にくわえてもらったようだった。
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