夢と現

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ここに一人の少年がいます。少年の名は、倉田慧といい、中学一年生です。活発で気立てのいい子です。しかし、友達にねたまれてもいたのです。 「おい、慧。金かしてくれよ。」 「いやだよ。何で僕が。」 ねたみは、はじめは陰口だったのですが次第にエスカレートしていくのは目に見えています。 「いいから出せよ。」 いじめが慧を苦しめ始めました。歯向かえば、彼らは容赦なく力でねじ伏せ従わせるのです。殴られては、口の中に血の鉄くささが広がる。そして、それを見て笑うクラスメート。学校に慧の居場所は無かったのです。 「お帰り、慧。どうしたの?」 「姉ちゃん。ううぅぅぅ。」 慧の唯一の救いは、たった一人の姉、早羅でした。両親は慧が五歳の頃に他界していて、たった二人だけの家族です。 「大丈夫。お姉ちゃんがいるから。大丈夫よ。」 「何で僕ばかりがいじめられるの?僕に父さんと母さんがいないからなの?それとも僕が何か悪い事したのかな?何で・・なんで僕だけがこんな目にあわなくちゃならないの?」 早羅にはなぜ慧がいじめられるのか見当もつきません。両親が亡くなった日から慧は健気にも早羅を支えてきました。しかし、そういうのが彼らにとってはウザかったのです。頑張れば何でもできる、その証明といっていい慧の存在が。 『父ちゃんも、母ちゃんもいないくせに生意気なんだよ。』 そう以前に彼らのうちの一人が言っていました。 『瑞希ちゃんに話しかけてんじゃねぇよ。馴れ馴れしいんだよ。』 彼らのうちの一人がそう続けました。つまり、瑞希という女の子と慧が仲良くしていたのが気に入らず、慧に文句を言うための口実とした何気ない言葉だったのです。初めは・・・。 次第にエスカレートしていき、友と呼べていた人も慧に暴力を振るい始めました。 きっかけは、つまらないことでも彼らや慧にとっては重大なことだったのです。 「慧は、何も悪くないよ。悪いところなんて無いから。」 優しい姉は、柔らかいその腕でそっと泣きじゃくる慧を包みました。服越しにでもわかる優しい温もりが慧の心を満たしていきます。 「うん・・・。」
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