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「おい、慧。ナイフなんぞ何に使うんじゃ?」
「アウトドアだよ。十ジイ。」
刃物なら何でも取り扱っている店、桐沢屋。その店主の桐沢十郎に慧が言いました。それに軽く答える慧。慧の両親と十ジイは、両親が生きていた頃からの知り合いでした。慧の両親が亡くなってからは、十ジイがちょくちょく世話をしてくれました。
「慧よ。買うなら安くしとくぞ。」
慧は、刃が黒いナイフを手に取り、そのナイフを見つめました。
「それがいいのか慧?」
少し考えて慧は、そのナイフを十ジイに渡しました。
「うん。これがいい。」
毎度、と愛想よく言ってナイフの包みを差し出してくる十ジイ。それを受け取り、会計を済ませて慧は、足を家に向け歩き始めます。
その夜。慧は、ナイフに見入っていました。それは、黒い刃に呑み込まれたかのように。いや、心の闇に身を染めたように。
「これがあれば、姉ちゃんを守れる。」
慧は、早羅が負った傷に心が引き裂かれる程にショックだったのです。もっと自分が強ければ早羅に怪我などさせることなどなかったのにと。
「僕が姉ちゃんを守るんだ。守る。そう、どんなことがあっても守るんだ。」
早羅を傷つけようというのなら傷をつけようとする奴を全て殺そう。姉ちゃんは、僕のものなんだから。
慧の手の中で黒いナイフが微かに黒々とした光を放っていた。
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