Chapter.1 博士の記憶

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 また私は同時に、生物工学にも興味を持っていた。遺伝子を組み換え、生命そのものを操作する。私はそのことに対しても強い憧れを抱いた。  妻はそのことを咎めるかもしれないと思ったが、思いの外そのようなことはなかった。それどころか、彼女は進んで私に科学の力を生物に行使することを頼み込んできたのだ。私はいささか理解に苦しんだが、愛する妻の頼みとあり容易くそれをやってのけた。以降自宅の玄関には、季節に関係なく彼女の好きなクリスマスローズが居座ることとなった。彼女は誰かが家に来るたびにそのことを自慢し、私もそのことを嬉しく思った。  人造人間の研究が徐々に進み始めた頃、研究施設に一人の客が訪れた。眼鏡の奥に狡猾そうな細い目を持つ長髪の男だ。名を青葉といった。 「なるほど、個人の研究所としてはかなりのものですね」  彼は内装を覗き込みながら話し始めた。言葉は丁寧だが、なんとなく見下されているように感じさせる言い方だった。  彼は、とある国営研究所の所長らしい。私と同じく人造人間の研究をしているが、今は人員が不足しており、そこで私を勧誘するためにここまでやってきたようだ。
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