Chapter.1 博士の記憶

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 私は訝しんだ。いったいどこから私がこのことを研究していることを知ったのか、またどうして私のような個人の助けを得ようとするのか、不思議でならない。  だが少なくとも、研究するだけの技術は確かにあるようだ。青葉が持ち込んできた報告書から、私とほぼ同じ内容で、私より上の成果をあげていることが見て取れた。流石に国営と言うだけはある。  私は報告書を読みながら、そこへ行くための条件を尋ねた。そこまで大それたところへ行くのだから、ただでできるはずがない。すると彼は、まるで準備してきたかのように淀みなくこう言った。 「研究が完成するまでは、施設からは出られなくなります。ただし身内に限り、手紙や電話での連絡を取ることは可能です。ご家族の生活費はこちらで全額保証させていただきます。どうですか。決して悪い条件ではないはずですよ」  確かに、悪条件ではない。むしろこれが相手の最大限の譲歩なのだろう。私も、これ以上のことを望むつもりはなかった。私でなければ、それを呑み込むことはやぶさかでないだろう。
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