夏の夢

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それから……どうしたんだっけ? その先がどうしても思い出せない。 ただ、なんとなく嬉しかったのを覚えているだけだ。 そうだ、あの二人を見ていればいいんだ。 あれが昔の私とユウくんなら、続きがあるはず。 そう思い私は、思考を目の前にいる二人に戻した。 けれど、二人はもうすでに泣き止み、転ぶ前と同じように手を繋いで笑い合っていた。 本当に、楽しそうに。 それを見ているうちに、私も一緒に笑いたくなった。 私もユウくんの隣で笑いたい。 私が二人に手を伸ばした瞬間、すごい勢いの風が私に向かって吹きつけてきた。 反射的に顔を手で覆い、目を閉じる。 風の音に紛れて、かすかに幼い私たちの笑い声が聞こえる。 けれど、少しずつその声が聞こえなくなっていく。 一瞬が永遠に感じられる時間が過ぎ、風が止んだ。 ゆっくりと目を開けると、幼い私とユウくんの姿はなかった。 慌てて周りを見渡してみるが、どこにもいない。 「あれは一体なんだったの……?」 私はただ茫然としながらその場に立ち尽くしていた。 さっきまで確かに聞こえていた、幼い私とユウくんの声は聞こえなくなり、代わりに蜩の声が聞こえるだけだ。 ムクは退屈そうに私の足元に寝そべり、しっぽをゆっくりと振っている。 幼い私たちも、あのすごい風も気のせいだったのかと思えるくらい、何も変わっていない。 あれは本当になんだったんだろう? 私は白昼夢でも見ていたのだろうか? でも、夢とは思えないくらいにリアルだった。 私は混乱してしまい、その場から一歩も動けずにいた。 思考回路は、無意味にぐるぐると動いていたが。 そういえば、ユウくんが中学生になってからユウくんに会ってない。 野球部に入ったので、朝早くに出て夜遅くに帰ってくるようになってしまい、会えていなかった。 同じ中学に通っていたのだから、会いに行こうと思えば会いに行けたのに。 遠くから眺めていたユウくんは、どんどん格好よく男らしくなっていった。 そんなユウくんの変化に着いていけなくて、私は会いに行くことができなかった。 そんなユウくんに会って話をしたら、どうしていいか分からなくなってしまいそうな気がして。
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