夏の夢

12/12
前へ
/12ページ
次へ
もう一度、もう一度だけでいいからユウくんに会いたい。 そして、あの笑顔をすぐ近くで見たい。 そう思ったとき、前にも同じことを思ったことがあったのを思い出した。 それは、ユウくんが中学校を卒業してしまう日のことだ。 最後くらいユウくんと話したいと思って、卒業式が終わった後、ユウくんを探して学校中を走り回った。 たくさん走ってやっとユウくんを見つけたのに、私は話し掛けることができなかったのだ。 友達と話しているユウくんの姿を見ただけで、気が動転してしまい、思わず逃げ出してしまったから。 逃げて逃げて、そのままの勢いで家まで帰った時、すごく後悔した。 最後のチャンスだったのにそれを活かせなかったことが悲しかった。 それ以上に、自分が情けなかった。 もう一度ユウくんと話がしたいと、笑顔を向けてほしいと思って、勇気を振り絞ったはずなのに。 なのに、逃げてしまった。 あの時思った。 次は後悔したくないと。 次はやりとげてみせると。 そう、思った。 それを思い出した私は、決心した。 今度こそ、逃げないでユウくんに会うことを。 ユウくんの家に行ってみよう。 もしかしたら、今は留守かもしれないけど、とにかく行ってみよう。 そして、会えたら聞いてみよう。 私が転んで大泣きした日、何をしてくれたのかを。 それから、伝えよう。 あの頃は持て余していたこの気持ちを。 今度は、後悔せずにすむように。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加