遭難

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遭難と決まって、数時間―。 祖父の捜索が始まった…。   母は『きっと我が家は呪われているんだ…』と言いながら肩で息をしながら泣いていた…。   ついこの間も思った事だが、母の泣く姿はあまり見たくない…。   母は町の診療所に勤める看護師で、長い間勤務している母は、町でもちょっとは名の知れた人の一人だった。 そして家では毎日、誰よりも早く起き、仕事が終わってからも遅くまで家事をこなす。 休む事なく毎日頑張る母を慕ってくれる人も多く、俺はそんな母を心の底から尊敬し誇らしく思っている。   そんな、いつも笑っていて、朗らかで優しい顔をしていた母は、この2、3ヶ月で、すっかり“泣き顔”になってしまっていた…。 母が泣く度に切なくなる…。 だから俺は、祖父自身を心配する傍ら、母の為にも早く見つかるように祈るしか出来なかった。   夜が明けてもまだ祖父は見つからなかった…。   祖父が遭難して、半日と数時間が過ぎた頃、俺はいてもたってもいられず近くの神社に行った。 100段近い石段を駆け上がり、息を整えずそのまま合掌、そしてひたすらに祈った…。もちろん願いは一つ、 『早く見つかりますように』と―。
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