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それは周りのビルにも負けないくらい高く聳え立っていた。
実際瑠衣がここに足を運ぶのはこれが2度目で、入学式に使って以来それっきりだった。そして入り口にその者はいた。
「ぼくからのラブレターは気に入ってくれたかな」
知らない少年だった。同じ制服を着ていることからここの生徒である事がわかった。髪は脱色したかのように真っ白で、印象づけるのがすべてを見透かしているかのような赤い瞳。
「……君は?」
「ぼくは桜井聡一(さくらいそういち)。君と同じここの一年生さ。深海瑠衣君」
「それで、何か用?」
この際、なぜ自分の名前を知っているかなどどうでもよかった。
「つれないなあ、折角自己紹介してるのに。……まあいいさ」
その白髪の少年はニヤリと笑った。
「―――始まるよ。これからゆっくり楽しもうじゃないか」
「え?」
背筋が凍りつくような感じがした。不意に後ろから別の声が聞こえてきた。
「お~いる~い、一緒に帰らない?」
そこには今から帰宅であろう凛が立っていた。
「そういえば、明日は彼女たちと出かけるそうじゃないか……ククク、せいぜい気をつけるんだね」
「おい、ちょっとま…」
振り返るとそこに聡一の姿はなかった。まるでそこは何もなかったかのようにがらんと静まり返っていた。
「なにぼ~っと突っ立ってるのよ」
「あ、ああ。今行くよ」
彼女の声に押されるように瑠衣はその場を立ち去った。
楽しい日常は瞬く間に過ぎてゆく、変わりゆく時間を急かすかのように――。
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