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「いえ、別にいませんけど・・・・」
「そう、なんだ・・・・」
「なんですか、もしかして、千穂さん俺に惚れてたり?はは、なーんてあるわけ」
「あ、あはは、ばれちゃった?」
俺はぎょっとした。まさかの返答だ。
てっきり「そんなことないよ~」とか言ってぶん殴られるもんだと思っていた。
「え、え!?」
「いつからだったかなぁ、孝充くんのこと意識し始めたの」
戸惑う俺を華麗に無視して千穂さんは語り始めた。
「孝充くんが、中学二年生の時かなぁ。ご両親が旅行に行って、私に世話を頼んだ時、覚えてるかな?」
確かにそんなことはあった。父さんと母さんが結婚記念日で、旅行に行くというので俺は千穂さんに預けられたのだ。
「孝充くんの寝顔、可愛かったなぁ」
「ね、寝顔みたんですか・・・・」
「それからね、孝充くんのこと考えると、胸のドキドキが止まらなくってさぁ」
千穂さんは顔を真っ赤にしながらあはは、と笑った。
正直、驚いた。千穂さんからすれば俺なんてガキだと思っていた。そう思っていたから千穂さんを恋愛対象として見たことなんて一度もなかった。
「そ、そんな急にいわれても・・・・」
「そうだよね・・・・」
今度は嫌な沈黙が病室内を支配した。
「そ、それにしても、ホント、ひどい目に逢いましたよ」
沈黙を破るために、俺は話題を振った。
「まさか、あんな人ごみで通り魔にやられるなんて」
あはは、と俺は笑った。いてて、傷口が痛む。
「ああ、あの時はごめんね?」
「は?」
あの時は、ごめん?・・・・ああ、なんつー悪い冗談だ。
「や、やだなぁ、びっくりするじゃないですか」
千穂さんを見ると、にこにこと笑っていた。
・・・・いや、訂正しよう、にこにこなどしていない、なんというか、無機質な笑顔だ。
「私ね、考えたの」
なぜだろうか、その笑顔からは恐怖すら感じられる。
背中に嫌な汗が滲みだしてくる。
「孝充くんは私の気持ちを受け取ってくれないってわかってた」
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