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気づけばすでに、点滴の取り付けは終わっていた。
「だからね、どんな形でもいいから一緒にいられればいいって思ったの」
逃げたい、けど身体が動かない。それは俺の身体が恐怖にのまれているからだ。
「そ、それで俺を刺した?はは、冗談ですよね・・・・?」
怖い、怖い、怖い。千穂さんが千穂さんではない。千穂さんはこんな人じゃない。
「好きだよ、孝充くん・・・・」
点滴の液がやけに熱く感じた。身体の中をぐるぐると駆け巡っているのがわかる。
頭がぼーっとし始める。そして気づいたのは、点滴の中身は鎮痛剤ではないということ。
時すでに遅し、俺の頭はもう、なに、も・・・・、考えら、れなく、なっていって・・・・。
「これからは、ずっと一緒だね」
さい、ご、に見た、のは・・・・、千穂、さんでは、な・・・・い、千穂さん、の、笑、顔、だった・・・・。
「おはよう、孝充くん」
私は病室のカーテンをゆっくりと開ける。
「いい天気、散歩でもいこっか?」
そう問いかけても、彼は何も返事をしてくれない。
明るかった彼はいまではもう、物言わぬ、人形のようになってしまっていた。
その瞳は虚空を見つめ、口を薄く開いて規則的な呼吸を繰り返すばかり・・・・。
それでも・・・・。
「孝充くん・・・・」
彼の頬にそっと手を添える。
「私、いまとても幸せだよ・・・・」
軽く額に口づけをする。
なぜだかその無表情な顔は、涙を流しているように見えた気がした。
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