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「私は七藤 菜津姫(ナナフジナツキ)です」
「菜津姫ね」
「はい。…私、いじめられっ子で。よくいじめられているんです」
「さっきのあいつらか?」
「…はい。あと他にも何人か…」
日頃のいじめがつらいことなのだろう。
視線は下を向いたまま、悲しそうに語っている。
「それで?それをどうしたいんだ?」
この話をしたということは、どうにかしたいんだろうと綾女は思った。
だが、意外な答えが返ってくる。
「あ、いえ。別に…。どうしたいとかっていうんじゃないてく、ただ聞いてほしかった。ずっと誰にも言えなくて。言ったらエスカレートするから…言えなくて。苦しかった。それに、みんなも自分に被害がくるのを怖がって聞いてくれなかったから。あ~、なんだかすっきりしちゃいました。ありがとう、聞いてくれて。新崎さん、それじゃ」
本当に話をしただけ。
他に望みを述べたわけでもなく、ただ“自分はいじめられている”と口にしただけ。
誰も話を聞いてくれない環境の中にいた菜津姫は、それだけで救われた思いだった。
「そうか。…頑張れよ。いじめなんかに負けんな!」
ポンと肩を軽く叩く。
綾女ならば、いじめている連中を締め上げることはたやすい。
だが、本人がそれを望んでいないのだから、わざわざする必要はない。
それは迷惑になりかねない。
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