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何しろ、ちいちゃんの家族は一般的なそれとはまったく違ってい
て、かなり訳ありなのである。
ちいちゃんの父、桜井芳雄(二十五歳)は真史の双子の兄である。
一応の肩書きは青年実業家。表向きは中小企業の社長ということになっている。
母親(と言っていいのか?)は、ちいちゃんと血の繋がりはない。
何故なら、ちいちゃんの生みの母親は、ちいちゃんを生んですぐに亡くなってしまったからだ。
要するに、今の母親は芳雄氏の後妻にあたる。
しかし、話はそんなに単純ではなくて、芳雄氏の現在の妻は、桜井稔(さくらいみのる)という現在十八歳になったばかりの成人もしていない少年だった(しかも養子縁組をして戸籍上は芳雄の弟という事になっている)。
別に、稔がちいちゃんをいびるとか大切にしていないという事ではない。
真史から見ても、世間の母親に見劣りしないぐらい、稔は、ちいちゃんを大切にしている。
しかし、いかんせん、稔はまだ十八歳になったばかりのお子様なのだ。
そこに大きな問題があるわけで……。
真史は、何とかちいちゃんを連れて、副担任の戸田和子と桜組の子供たちが待っている、花園児童公園に連れてくる事が出来た。
花園児童公園はキリン幼稚園から子供の足で歩いて五分ほどのところにあるので、時々、真史はカリキュラムに散歩を入れて、ここまで子供達を連れて来るのだ。
「戸田先生、ありがとうございます。おかげでちいちゃん、見つかりました。子供たちに変わりはないですか?」
真史は公園に備え付けてある遊具で伸び伸びと遊ぶ桜組の十八人の園児たちに目を向けながら、戸田和子に声をかけた。
ここ最近、物騒な事件が続いているので、幼稚園の教諭と言っても、一瞬たりとも気は抜けない。
「ええ、大丈夫ですよ」
戸田和子はおっとりと答えて真史に笑顔を向けた。
戸田和子は三十歳。小学一年生になる男の子の母親でもある。
結婚を機に一度は幼稚園教諭を退職した人だが、子育てに一段落したからと、保育の時間だけパート感覚で幼稚園の仕事をしている人だ。
「それは良かった」
ホッと息をついた真史に、戸田和子は気の毒そうな視線を向けた。
「桜井先生も大変ですよねえ。何たって、ちいちゃんの担任でしょ?去年の如月先生なんて、ちいちゃんの事で体調を崩したらしいじゃありませんか」
「あははは……そんな事もありましたねえ」
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