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ちいちゃんは年少の頃の担任と相性が悪く、今以上に荒れていた時期があった。
ちいちゃんは口も達者で賢い子だけに、担任の如月先生もかなり苦労したらしい。
結果、すっかり体調を崩した如月先生は、幼稚園を辞めるところまで追い込まれてしまったのだった。
真史には一言多いながらも言う事を聞く可愛い姪のちいちゃんだが、他の先生には、かなり評判が悪い。
実を言うと、姪であるちいちゃんの担任を真史が受け持つ事に関しては、かなりの異論があった。
しかし、ちいちゃんの性格を考えた上で、他の先生がちいちゃんのクラスを受け持つデメリットの大きさを考えると他に方法が見つからなかったのだ。
結果、真史がちいちゃんのいる桜組を受け持つ事になったのである。
真史は、ちいちゃんが手下というべき(しもべ僕と言った方が近いかも?)、積木貞夫(つみきさだお)を砂場で怒鳴り散らしている姿を見ながら肩をすくめた。
そろそろ幼稚園に戻った方がいいかもしれない。
時計を睨んでそう結論を出した真史は桜組の子供たちに召集をかける。
真史の声を聞いたちいちゃんの手によって、二分もしないうちに桜組の子供たちは集められ、真史の前で整列させられる。
流石だ、ちいちゃん。
要するにちいちゃんに嫌われさえしなければ、ちいちゃんは担任の役に立つしっかり者の園児なのだ。
しかし、真史の苦難は今、始まったばかりである。
この時の真史は、その事に気付いていなかった。
それに気が付くのは、真史が幼稚園に戻ってからだ。
幼稚園に戻った真史とちいちゃんには、とんでもない事件(?)が待っていた。
子供達に帰り支度をさせていると、保育室の外で真史に手招きをしている保護者の姿を見つけた。
降園の時間まで、まだ一時間ある。
お迎えで毎日のように見慣れている、その人物の突然の出現に驚きながら、真史は保育室のサッシをまたいで、その人物の前に立った。
「どうしました?貞夫君のお迎えですか?」
さわやかな笑顔と口調で声をかけると、その保護者は憮然とした様子で口を開いた。
「ちょっとぉ、桜井センセ、聞いてくださるぅ?桜井さんの所のちぃちゃんが、うちの貞ちゃまをまた!投げ飛ばしたんですのよぅ。イジメです!イジメ!ちゃんとぉ注意して下さい」
この大人とは思えない舌足らずな口調で真史に詰め寄ってくるのは貞夫の母親、積木美由紀、四十歳だ。
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