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ちなみに貞ちゃまとはいうまでもなく貞夫の事である。
積木貞夫は、ちいちゃんに劣らないぐらいおかしな子供だった。
幼稚園児とは思えないほどの女好き(特に年上のお姉さんが好き、ブサイクとおばさんは圏外)で、真史が「将来の夢は?」と聞いた時には迷う事なく、
「ぼくは大きくなったら、女のヒモになる」
と言ってのけたのだ。
おかげで真史は散々な目に遭った。
まず、園児たちに「ヒモってなに?」と聞かれて困り、貞夫には「ヒモなんて、まともな大人がなるものじゃないんだよ」と説明すること二十回。
さすがの真史もうんざりしてくる頃になると、貞夫の心も少し動いたらしい。
「じゃあ、ヒモはやめておく」と真史を安心させた後、「ホストになるよ」と、にこやかに決心を変えた。
その頃になると、真史の方も貞夫を説得するための気力もなえていた。
まあ、ホストも職種である事に違いはないのだし、貞夫もいつか目を覚ますかもしれない。
それを願う事にしよう、そう考え直して貞夫を見守っていく事にしたのだ。
「ちょっと、貞夫のおばちゃん!マー君が困っているじゃないの!」
真史と美由紀のやり取りを見ていたちいちゃんが、真史を守るように立ち塞がった。
イヤ、もともとはちいちゃんのせいなんだよ、と言いたくなったが、真史はそれを抑えた。
ここでの責任者は自分だ。子供一人一人に目を配れなかった自分に非がある。
真史はちいちゃんを自分の背中で隠すと、美由紀に頭を下げた。
「すいませんでした。これからは今まで以上に気をつけて見ていきます」
「分かってくれればいいんですぅ」
満足げに真史を見る美由紀の態度に、ちいちゃんがキレた。
「あんたねえ!自分の子供が悪いとは思わないの?」
「ちょっと、ちいちゃん!」
真史が止めに入ったが、もう遅い。
ちいちゃんの怒りの導火線に火が点いてしまった。
「ぬぁんですってぇ~」
「貞夫はね、あたしのスカートをめくってパンツに触ってきたの!女の子のパンツを触るなんて、投げ飛ばされて当然でしょ!大体、子供が女の子に言い寄るなんて、あんたのところではどんな教育しているのよ!」
ちいちゃんは怒りのあまりに、自分も子供である事を失念している。
ちいちゃん強し!
普通の幼稚園児はここまではっきり大人に対して物事を伝える事は出来ないだろう。
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