ある雪山のペンションにて……

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 クラウンファーマに吸収合併される10日前、アークファーマ研究所は火災によりその機能を完全に停止。廃墟と化した。  一部では証拠隠滅の為の偽装だという意見もあるが、そうではない。  ある囚人による放火説を記事は主張している。  その囚人は例の取り引きを研究所設立以来初めて成立した囚人だ。  当時研究所所長、荒木は、その囚人の取り引きを秘密裏に交した。囚人はある場所に1000万円相当の隠し財産を持っていると主張。その在処を書いた地図を取り引きの見返りに、自由を求めた。自分と他の仲間3人の釈放を荒木に持ちかけたのだ。  荒木は秘密裏にこれを承諾。囚人に地図を書かせ、金庫に隠す。だがその地図の真偽はわからない。囚人の苦し紛れな虚言かも知れない。よってこの場合は真偽を立証してから取引を成立させる。今までのケースでは、全て虚言だった。真偽の確認には時間がかかるが、今回のケースはその時期が、クラウンファーマとの合併後に研究所を10日後には閉鎖する予定の最中だった。しかも仮に真実として、現実的に死刑囚をこの取り引きによって釈放するには厚生労働省の許可も必要。その際、金のほとんどは国に没収されてしまう事もある。  結局、荒木は事実を隠滅して、囚人を助ける事はせずに実験台に送ってしまったのだ。宝の地図は金庫に入れたままなのに、一度は受け容れた取引を時間が無いという事で退けた。  当然その囚人は激怒する。恨みや執念を膨らまし、仲間と3人で死を覚悟した反乱を思案する結果となる。  反乱当日、幸いにも研究所の閉鎖前で、いつもの半分の警備だった事もあり、なんとか所長室まで駆け付ける囚人たち。  荒木所長を残酷に殺害し、研究所に火をつけ脱走する手筈だった。彼らはそこまでは順調に行った。しかし、火災発生時、防火シャッターに閉じ込められ、その囚人3人も炎上した施設内で無情にも死亡する結末となった。  この火災事件で施設内にいた12名の研究員と、16名の警備員、14名の囚人全てが死亡した事件となったが、囚人への非人道的な臨床試験、取り引きについては、政府関係者の手によって密やかに闇に放り込まれた。  だが、あの金庫内の地図は残されているというのが、この胡散臭い記事を書いた記者の主張だった。現在では、怨念渦巻き、うかばれる事のない囚人たちの悪霊がでると噂される研究所内に……。
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