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18時になり、1階の食堂に行くと既に5人分の食事の用意がしてあった。
意外にも洋食で、とても美味しそうだ。
…モッツァレラチーズにトマトの前菜、子牛のフィレステーキにポタージュスープ、ラタトゥーユ、焼きたてっぽいクロワッサン……等々。
まるで一流ホテルのディナーのような彩りがあり、テーブル中央に置かれたフランス産の軽い赤ワインによく合いそうなメニューだ。
食堂はカウンターキッチンがあり、カウンターの上には人数分のデザートとコーヒー(エスプレッソ)も用意されていた。
「…なにぶん、一人で経営してるもんで……。飲み物の追加はそこの冷蔵庫に入ってます。勝手に取ってください…。」
じいさんはそういうと部屋の出口に向かった。食事は豪華なのに相変わらず愛想が足りない。
「あの…源さんは召し上がらないんですか?」
美紀の質問にじいさんは立ち止まり、振り返らずに呟くように答えた。
「……私はもう済みました。お気遣いなく…。」
じいさんは言い終わるとチラっと美紀を見た。
「あ…いや…そうですか…。」
美紀は居心地悪そうにしている。
食堂内に異様な沈黙が漂った。何故かこのじいさんが居ると緊張感が漂う。じいさんが部屋を出て行くと、ようやく部屋に酸素が満ちたように、みんなは溜息をついた。
「意外ね~。愛想悪いけどあのおじいちゃん元コックかしら?」
「ほんとスゲー美味い!!」
「ほんと意外だよね?おれあのじいちゃん一人だから、夕飯のメニューはある程度覚悟してたよ!」
「あ、美紀ワイン取って。」
「はい蓮。ほんと、ここのペンション、温泉も良かったし、穴場だね。」
「だな~。うちらの貸し切り状態だし。」
「これであのおじいちゃんの愛想さえ良ければねぇ?」
「由佳、ほんとはあの人裏方で、吹雪きで来れてない従業員がいるんじゃない?…で、仕方なく接客もやることになって緊張してるとか?」
「なるほど…ありえる。」
蓮たちはすっかりスキー場休業の可能性や研究所廃墟の事は忘れ、意外だった素敵な夕食を楽しんだ。
機嫌が良くなったみんなはそのあと再び温泉に浸かったり、明らかに昼間の時より盛り上がったトランプをして、雪山の夜を過ごした。
明日訪れる、恐怖の世界なんてこの時も予感すらなかった………
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