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ペンションから研究所廃墟までは車で30分ぐらいだ。除雪のされていない山道を蓮は十分気をつけて運転した。周りは背の高い樹木が多いのと分厚い雪雲で、昼近い時刻にもかかわらず、薄暗い。
目的地までの走行中、美紀がある質問をした。
「…ねぇなんで源さんは研究所の記事をスクラップしてたのかな?」
「………さあな。…経営してるペンションから近かったからじゃないか?」
「…スクラップしてたんだから、あのじいさんもお宝の噂、当然知ってるよな?」
「じいさんも狙ってるって事?」
「まさかぁ?数少ない地元ネタを纏めてただけだよ。」
「ちょくちょく抜け出してる時、廃墟に行ってたりして…」
「じゃあ今もひょっとして…。」
「それはないな。昨日は買い物袋持って帰ってきたのを見たから多分下山して買い物だったろうし、今先に向かったと考えるなら車の通った跡が雪道にないしな。」
「…うん?どうした?美紀。」
窓の外を美紀が青ざめた顔で見ている。
「……あれ……研究所?」
みんなは窓の外を見た。
そこには真っ白に雪化粧をした樹木の奥に見える、真っ黒な建物が見えてきた。
火災の跡が5年たった今でも、剥がれ落ちた外壁や焦げて真っ黒になった外観により、当時の悲惨な様相を生々しく物語っている。
蓮は正門と思われる瓦礫の前に車を止めた。瓦礫の中に、雪に埋もれかけた“KEEP OUT”と書かれた黄色に黒字の看板が目に着く。
そしてその瓦礫になった門に【アークファーマ・ジャパン生物感染症研究所】と看板があった。
間違いなく、ここが噂の研究所廃墟のようだ。
建物は2階建てで、所々崩れている箇所がある。しかし建物の構造が丈夫だったのか、これ以上崩壊する様子はない。
大きな建物だ。郊外のホームセンター程はある。
高熱で変形したと思われる窓ガラス、剥き出しになった鉄骨で、建物自体が不気味な生き物のようにも見え、侵入者を威嚇しているようにも思える。
蓮たちは言葉を失った。
迫力ある異様な廃墟に唾を飲み込む。初めて研究所と言う建物を目にしたが、建物の印象は研究所と言うより何か寂れきった工場みたいだ。必要以上に重厚なコンクリートの壁…
沈黙化した車内、暫くして拓真が「…すっげぇ…」と呟いた。
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