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「やっぱ営業してないな…。」
蓮は今どき珍しくなったダイヤル式黒電話の受話器を本体に戻した。チンッ…と小気味いい音がする。
ペンション源(ミナモト)に着いたのは5分前。あまりの猛吹雪きだったのを心配して、蓮たちはまずペンションからスキー場に電話してみたのだ。
ダメだった場合はあまり想定出来てなかったが、かといって楽観的に考えてたわけじゃない。
案の定…といったところだが、実際現実的になるとかなり重い空気がペンションのロビー内に漂った。ロビーのソファーに座っている四人の仲間は、スキー場が休業という悪い知らせをまるで他人事の様に、各々ため息をついて虚ろな視線を蓮に何となく送っていた。
ロビーに置かれたアンティークラジオからも、山間部が雪に閉ざされたという情報が聞こえてきていた。
「どうする?じゃあ代わりにどっか別のところに行く…って感じの場所じゃ…ないな?」
着替えが面倒だからと、スキーウェアを着てきた拓真は、ロビー奥に見える窓から外を眺め、眉間に皺を寄せて答えた。
「うん…ナビで見てたけどこの辺なんもないよ。」
温度差で曇ったメガネをティッシュペーパーで拭きながら、祐輔もため息混じりに答える。
「だいたい…こんな吹雪きの中じゃ、あぶなくて出掛けられないじゃない!」
由佳は機嫌が悪そうに、決して吹雪が拓真のせいでもないのに、睨み付ける様に拓真を見る。その理不尽性言動をおおらかに許容するならば、それはもっともな意見だった。
「じゃあちょと早いけど、温泉にでも入るってのはどうかしら?」
美紀が話題の方向を変える。その前向きな提案は悪くなかった。タイミングも良い。
なぜなら突然の吹雪きもあって蓮は長時間の運転疲れが溜まっていたし、同乗者たちにも疲労があったからだ。
「そうすっか…」
美紀の提案に、誰も異論はなかった。各々ウェアやらスキーブーツやらが入った重たいバックを担ぎ上げ、重い腰を上げる。
蓮たちはペンションの経営者、源(ミナモト)さんに案内され、まず荷物を部屋へと運び込んだ。
源さんは愛想のない、一見すると怖そうな印象の老人だが、ペンション自体はできて間もないためかそこそこ綺麗だった。
バックを肩に担ぎ、ロビーから二階に続く階段を疲れた面持ちで登る。
蓮たちはまだ、この予定変更によって最悪の結末に至るとは、誰しも予感すら無かった。
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