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浴場はこじんまりとしていたが、だるくなった身体を癒してくれる。
このスキー旅行を計画した時、温泉があるところじゃなきゃ嫌だと、由佳がこだわっていたのには骨を折ったが(だったら自分で探して予約しろって蓮は思ってた)、こうして檜の温泉に浸かっていると、由佳のこだわりも納得できる。
悪くない。
しかも蓮たちの貸し切り状態だった。
「他に客はいないみたいだな…」
「いきなり天気悪くなったからじゃん?」
「…確かに。俺らはもう引き替えせなくなってたけど、こんな天気じゃ普通やめるよな。」
「…明日は晴れるのかな?このままじゃ退屈だな…。」
「…どうかな?最悪3日間ペンションに引きこもりだったりして?」
「ゲェ…。それは最悪!」
「いくらなんでも…。まだ11月だぜ。今年は暖冬だし、いつまでも吹雪いてもらってたまるかよ!」
「…まぁ、なるようになるさ。」
「……由佳がうるさそうだな。」
「…あのじいさん(源さん)になんかないか聞いてみようぜ。」
蓮と拓真と祐輔は、そんな会話を不安気に交わしていた。そして浴場を出てロビーに行くと、既に由佳と美紀はソファーに座ってビールを飲んでいる。
あのじいさんの姿は見えない。受付のカウンターの隣にあった自販機で、蓮たちもビールを買いソファーに腰掛けた。
拓真と祐輔はタバコに火をつける。それにすかさず由佳が口を挟んだ。
「ちょっと、せっかくお風呂に入ったのにタバコやめてよ!」
「由佳…あのじいさんは?」
「知らないわよ!拓真!祐輔!タバコはやめて!部屋で吸えばいいじゃない。」
「うるっせぇなぁ。…ところでここ、テレビないのな?」
拓真がぼやくと、美紀が答えた。
「ラジオしかないみたいね…。」
「あちゃ…。暇すぎだな。」
そのラジオも受信状態がかなり悪い。溜息をつき、チューニングを合わそうと蓮はそのアンティークラジオに手を伸ばす。すると不吉な予感の様な機械音が一瞬ラジオから聴こえ、ギョッとして蓮が手を引っ込めると止んだ。
…壊れてやがる。
仕方なく蓮はロビー正面の窓から外に目をやると、絶望的な吹雪く景色が見えた。
特に乾杯も無く、蓮はビールのプルタブを空け、乾いた喉に流し込んだ。
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