完全な死体……

18/28
2318人が本棚に入れています
本棚に追加
/176ページ
「…こっち!階段があるわ!!」  扉の鍵は既に壊れただろう。地獄の門から悪霊が涌いて出てくる。  おぞましい形相で、抉じ開けた扉から出てくる…無数に、鳥肌の立つ死者の笑いとともに……そんなイメージが脳裏を掠める。  突如蓮は腕を捕まれる。 「…蓮、急ぐわよ!!」  携帯のディスプレイの光を当てながら、由佳が険しい表情をして蓮を見ていた。  蓮たちは階段を駆け上がりだした。  狭く、足元に無数のゴキブリが蠢いていたが、必死で足を動かした。  途中、美紀が叫んだ。 「待って!…待って……。」  美紀の足が止まった。 「美紀!急いで!」  美紀は肩で息をしていて、上手く話せないようだ。とっくに蓮たちは疲労の限界にきていた。  恐怖と闇の中の行動で、体力面も精神面も誰もが限界だった。 「美紀、行くぞ!」 「…待って…蓮……待って……。違う……」  美紀は苦しそうに何かを訴える。蓮はそんな美紀の様子にやきもきしながら、ふとある事に気付いた。  恐ろしい可能性だ。 「……違う……違うの………拓真……拓真は…?」  返事は帰ってこない。 「…拓真!……拓真は!……………いないの?」  由佳は携帯の薄明かりをあちこち照らす。  闇に写しだされたのは疲弊しきった蓮と美紀の顔、それと蠢く虫……。  拓真はいなかった。
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!