序章

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深夜の街角に、石畳に足音を響かせて逃げる男が居た。 男は突然目に見えぬ『何か』に触れ、衝撃を受けて倒れる。 後ろから追って来た青年が剣を構えた。 「やっと追い詰めた… 今日こそ終わらせる!」 男は賞金首の盗賊だった。 そして青年は男に両親を殺され、敵討ちの為に男を追っていた。 青年が剣を振りかぶり迫って来る。 明らかに素人の構えだ。 男は返り討ちにする自信は有ったが、姿を見せない何者かが青年に力を貸している。 それが見切れないのだ。 だが他に手も無く、短剣を抜いた。 振り下ろされる剣を短剣で受け流しながら懐に入る。 そのまま青年の腹を刺そうとするが腕に何かが絡み付き衝撃が走り、思わず短剣を落としうずくまる。 そこに青年の第二撃が振り下ろされた… 「終わったな。」 建物の影から一人の男が姿を表す。 切れ長の目に紫の瞳、同じく紫の長髪で、マントを纏っている。 彼の名はシオン・ローウェル。 ペット捜しから仇討代行まで、幅広い仕事を請け負う何でも屋ギルドのメンバーだ。 青年を援護した物の正体… ミスリルを細く加工した『綱糸』がシオンの手中に収められてゆく。 「有り難うございます、あなたのおかげです。 約束通り賞金は報酬としてお受け取り下さい」 青年の目的はあくまでも仇討ちで、賞金には興味は無かった。 「それでは規定をオーバーしてしまう。 半分も有れば十分だ」 「しかし、私には必要の無い金額です」 「ならば両親の葬儀代にすると良い。 こちらとしても規定以上受け取る訳には行かないのでな。 半額でも多いぐらいだ」 シオンは優しく笑うと、そう言いながら街角の影の中に消えて行った。 「有り難うございます…」 青年は、シオンの消えた方に頭を下げ続けていた。
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