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ベッドの上で寝転んでいたクロは、どこから引き摺り出してきたのか自分の半身ぐらいある煎餅をかじっていた。
「あら、早いですね」
てっきり晩御飯を食べるのかと思いました、とクロは煎餅を咀嚼をしながら付け足した。
「うん、少しでも『教科書』に目を通しておきたいし」
「随分真面目ですね」
まるで他人事のような口調に啓護は分厚い『教科書』を思い切り閉じた。
「応援する気ないでしょ」
「何を言ってるんですか。ありますよ」
明らかに無さそうな目にほんの少しだけ怒りすら覚える。
机にクロから貰った『教科書』を開く。
『教科書』とは悪魔に必要な呪文がびっしりと記されている分厚い本だ。
前半には基礎的な術が並び、捲れば捲るほど難しくなっていく。
隣からはボリボリと煎餅が砕ける音が聞こえ、上手く集中出来ない。
「集中出来ないんだけど」
鋭い目付きでクロを睨むと、クロはぴたりと咀嚼するのを止めた。
「これぐらいで集中力が切れてしまうようなら、悪魔にはなれませんよ」
抑揚のない言葉が重くのし掛かる。
啓護は吐き出したい文句をぐっと呑み込み、視線を教科書に落とす。
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