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西口を入ってから京急線の改札まで、人込みを掻き分けて進むと約六分かかる。
杏菜は誰かの靴に話し掛けようと下を見ながらターゲットを探した。
すると、かすかだが、靴の声が聞こえてきた。
『くぉ~…今日もキてるぜ、こりゃぁ!堪まんねぇなぁ~~~!』
杏菜は神経を集中させ、その声がスーツを着た中年のサラリーマンの靴のものだという事をつき止めた。
やっぱり靴は話すのだ。
杏菜はその人の後ろについて行くようにして靴に話し掛けた。
「あの、靴さん…あなたはこれからどの路線の電車に乗るんですか?私は京急なんですけど…良かったら途中まで何かお話しませんか?」
OLの靴のように、このサラリーマンの靴もすぐに言葉を返してきた。
しかし、先程のOLの靴とは雰囲気がだいぶ違っていた。
『なんでぃ、嬢ちゃん!俺っちに話し掛けてくるたぁ勇気があるじゃぁねぇか!』
杏菜はビクッとした。靴にも不良っているんだ、と思ったからだ。
しかし、靴はこう続けた。
『くっ~…嬉しいねぇ!しばらく話し相手がいなかったもんでよぉ。俺っちはこのまま東口に出るんでぃ。そこから"たくせぃ"に乗って帰るのょ!京急ならちょうど通り道だ!旅は道連れ世は情け。話の杯を交わすのも悪かぁねぇってもんよ!』
杏菜は安心して、よろしくお願いします、と挨拶し、気になっていた事を尋ねてみた。
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