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記憶
家に着くと両親が心配していた。
「何度も電話したのよ。何かあったのかと思って心配したわ…。よかった。」
そう言って母親がユイを抱き締めた。
レンの存在に気付き、ユイの泣き腫らした顔を見て言った。
「ユイ…何があったのか後で話してね。こちらは?」
レンを見て、娘を泣かせたのは この男の子か、と疑った。
「同じクラスの高城 レンくん。今日、助けてくれて、暗いから送ってくれたの…。」
ユイの紹介を受けてレンが言った。
「クラスメイトの高城です。この時間になってしまったので、お送りしました。」
レンのしっかりとした口調に、何があったかわからないが、娘を助けて夜道を送ってくれた男の子に好印象を持った。
「あら、ありがとね。お家はどこ?うちの車で送らせるわ。」
「いえ、お気遣いなく。うちの運転手に来るように言いますから…。」
レンは母親の申し出を丁寧に断った。
ならば、と母親は車が来るまで…とレンを家に招き入れ、レンは承諾し、家にあがった。
客間に通されてすぐにメイドが紅茶とマドレーヌを持って来た。
レンがマドレーヌを食べてる時、ユイは涙で落ちた化粧を落とし、制服を着替えて髪をとかした。
部屋を出ようとすると母親が立っていた。
「ユイ…何があったの?」
ユイは全てを話した。
言い掛かりをつけられたこと。
手をあげられそうになったこと。
そして、レンが助けてくれたこと。
母親はユイを抱き締めて、
「高城くんがいてくれてよかったわね。」
と言った。
「うん。」
ユイは母親の腕の中で、レンの腕の中を思い出した。
“すごく…暖かかったな…。”
ユイは、たった数時間前に感じた恐怖心を忘れ、安心感に包まれていた。
母親の頭の中には、まっすぐな目でしっかりしたあいさつをするレンがいた。
“あの子…なんだか見たことある気がするわ…。”
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