羨望

8/8
前へ
/105ページ
次へ
A組の教室に戻ると、ユイは安心感から更に泣き出した。 レンの手を握り締めたまま。 レンがユイを引き寄せて、抱き締める。 ユイの背中を擦った。 頭を撫でた。 レンの手は、暖かかった。 「もぅ、大丈夫だよ。」 レンの言葉に、 レンの手の温もりに、 ユイは安心した。 涙が止まった。 レンの腕の中から離れて、 「ありがとう…。」 俯きながら言った。 無言の時間が過ぎる…。 「帰ろう。もぅ暗いから送ってく。」 バッグを持って並んで歩き出した。 「さっき…。」 レンが言った。 「え?」 「言えたじゃん。“レン”って…。」 あの時、ユイは夢中でレンを呼んだ。 “くん”を忘れるくらい夢中で…。 「あ、あの時は…。」 恥ずかしくて俯くユイに、 「嬉しかった。」 とレンが言った。 そう言われると余計に恥ずかしくなった。 「昔より一歩…近付いた…。」 駅の雑踏の中、ユイはレンの言葉が聞こえなかった。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

86人が本棚に入れています
本棚に追加