記憶

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映画館に着いて、車を降りた。 レンの持っていたチケットはユイの母親が渡したものだった。 「今朝、ユイの家に電話してユイを連れ出していいか、お母さんに聞いたんだ。そしたら承諾してくれて、着いたらチケットを準備してくれてた。」 レンの言葉を聞いて、部屋に来た母親のニコニコ顔を思い出した。 「ママってば…。」 飲み物を買って指定席に座った。 映画の内容は、運命に逆らうように生きる女と、健気に待つ男の話だった。 クライマックス―――女が男の存在の大きさに気付いた時には男は病に侵されていた。 病室で、最期を看取ってくれる彼女に男は言う。 「俺にとってお前は…。」 涙を流す女…手をギュッと握り締める。 「一番の宝物だった。」 静かに息を引き取る男と、男の名前を泣き叫ぶ女――――。 映画を観ている人たちはハンカチで涙を拭いていた。 ユイも切なすぎる結末を涙を拭きながら観ていた。 室内が明るくなり観客がどんどん席を立つ。 レンは映画の余韻がさめきらないユイの手を引いて映画館を出た。
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