灯火

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「慶二君…!」     目の前にいる森蘭丸と五分で 剣と弓を交えながら呟いた名は 今此処にいない人物の名前。   秀吉ならきっと織田には勝てる。 しかし自分は─…。   頭の回転が速い分 そのような事には敏感で 既に死をも覚悟していた   できるならこの命 織田などではなく…愛しい者に 捧げたかったと唇を噛む。   だが今は後悔している場合ではない。 死ぬならば それ相応の代償が必要だ。 せめて森蘭丸と濃姫だけでも倒すのだ。   焦りはやがて隙を生む。 我に返ったのはなんとも皮肉な事に 相手のうれしそうな声からであった。     「おーわりっと!」   「しま…っ!」         究極BASARA技! 降り続く弓の雨 目映い光に彩られる雫を 肩から 足から 腕から 腹から 全身に受け止める 苦しさ・痛みよりも先に駆け抜ける 懐かしさに溢れる走馬灯 既に白い服は紅に彩られ 喉からヒュッヒュッと荒い呼吸が漏れるも その口許は緩い弧を描き 視線は空をただただ見つめていた     嗚呼   空が灰暗い。    
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