灯火

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  気づけば     隣には倒れた慶二君の姿があった 少しでも近づこうと 我が身に突き刺さったままの弓を 痛みのかんじなくなった体から 抜き取る。 瞬間微塵の痛みはあるものの 気にはしなかった。   もう濃姫の姿はない。 あとは双方の命が切れるまでの時間だ。 援軍は来ないようだ、ならばここで 命を絶やす事だろう。 自分はいいが相手は…。 ゆるりとした動きで倒れたままの 相手を見やればその手が伸び 僕の肩を掴みまたしても倒れる。   今度は固い橋の上ではなく 温もりのある体の上に   「花の命は…短くて……ごめんな」   君らしい台詞だね   「……ごめ、ん…」   何を謝っているんだい?   「ごめんな……」   あの日の喧嘩の事? それとも僕を守れなかった事? 君が謝る事無い 君が悪いんじゃない 僕の責任だ 謝るのは僕だ そんなに顔をゆがめて 無理やり笑顔を作って 痛みに泣きそうなのをこらえて 僕の髪を梳くなどしないで…     「……馬鹿だね、慶二君」     君は馬鹿だよ 僕の為に命を惜しまないなんてね でも 悪くない…。   冷たくなったその手に これから冷たくなる手を重ね 繋がりを永遠に求める 愚かな自分   花の命は短くて 咲き乱れるまで時間はかかれど 枯れるまでの時間は早く 輝く時間も短すぎる ごめん ごめん ごめん ありがとう 君という花と共に枯れることができた 君には悪いけれど 最後まで僕は幸せでした。    
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