プロローグ1-1

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 そこは茜色の世界だった。 茜色の光以外に何もない。 大好きな犬のクーや、お気に入りだった洋服。毎日行った裏庭の古池、15年間生活してきたお城も。 そのすべてがない。 あるのは、夕焼けのような世界だけ。  たぶん、私も此処にはいないと思う。 本当の私は何処か別の場所にいて、意識だけが、この世界に迷い込んでしまったのだろう。 上下右左、どこを見てみても、体なんて見えないんだから。  本来、上下とは重力の向きでもある。けど此処には、それも存在しなかった。 それ以前に、そもそもこの世界が内包してる概念自体、限りなくゼロに近いのかも知れない。 概念として存在しないものは、実体が存在する訳がない。 概念は初めから世界にあり、其処から溢れ出した“モノ”が実体として存在する。 だから、今の私は無価値な存在なんだ。
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