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混乱するばかりで、和樹の思考は霧散するばかりだった。
「助けてくださ~い」
どうするべきかと和樹が思案していると、妙に間延びした救援要請が耳を打つ。
「お願いします~助けてくださ~い」
もう一度。
聖夜の招かれざる客。手を差し出すべきか、放っておくべきか和樹は迷っていた。
(どうしよう。助けた途端、豹変して襲いかかられたりしたら)
和樹の頭の中には『クリスマスの悲劇! 十六歳少年刺殺!』という、ショッキングな新聞の見出しが浮かんでいた。
(きっとニュースとかでも好き勝手言われるんだろうなあ。レポーターに向かって俺の友人は『恨みなんてとんでもない、いい奴でした。ううう……』なんて言われたり)
「お願いします~手を貸してください~そうしないと~ここから落ちて死んで化けて出ますよ~」
妙な三段活用でサンタルックの女が言う。
和樹は女をジッと見る。思っていたより若い。和樹と大して変わらない歳なのかも知れない。
落下の恐怖に揺らぐ瞳は、草食動物のように優しげで頼りない。
『犯罪行為を行うようなタイプには見えない』和樹は、そう判断した。
「助けて欲しいのか、脅してるのかハッキリしろよなたくっ」和樹は苦笑しながら手を差し出し、部屋へと彼女を招き入れた。
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