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あの頃の俺は、友達が通っている大学の映画研究会に潜り込んで、勝手に監督として、一人よがりな芸術作品を制作して遊んでいた。
研究会の学生達だって、自分の未来を重んじて学問を学び、将来に結びつけようなんて崇高な志しなんて、これっぽっちも持ち合わせてない、親のスネかじりの烏合の衆だった。
立場こそ違えども、楽しけりゃそれで良いいのだ。でなきゃまず、大学にも行っていない、只の凡人の俺を監督として受け入れるわけはない。奴等とは馬が合った、偏にそれだけの事なのだ。
撮ろうとしていた映画には、色白の女性脇役がどうしても必要だった。いや語弊がある。必要はなかったかもしれない、監督のこだわりの虚勢のため、どうしても出したかったのだ。
「おい!鹿山。色白で綺麗な女性が必要なんだが心あたりはあるか?」
鹿山というのは、ボンボンの息子で、二歳年下の間抜け面なやつだ、顔は面長で受け口、何も考えてない時は口がいつも開いている。ボンボンの息子だけあって金には困っておらず、彼の部屋が映画研究会の溜まり場になっており、今もその部屋で二人、酒を飲んでいる。感謝の気持ちを態度にこそ出さないが、世話になっていて、有り難い存在だと思っていた。
「う~ん・・・。」目を瞑り考えているその姿は、正に白痴のそれだった。
「神山さん。居ました!居ました!」
「おぉ!居るのか?どんな子だね。」
「凄く綺麗な子なんですがね、何か変な宗教関係の家の子で、かなり暗いです。」
「ちょっとヤバい子なのか。で、出てくれそうか?」
「う~ん、みんな怖がって全く話し掛けないし、友達も居ないみたいだから未知数ですね。」
今なら危ない橋は渡らないのだか、当時の俺達は、危険や馬鹿な事に、アートを感じていた。「面白い。鹿山くんコンタクトを図ってくれたまえ。」
「わかりました!」
という運びで、後日初めて、氏川清子に合う事になった。
ある雨の日、鹿山のアパートに氏川がやって来た。どうやらすんなり出演依頼を受けてくれたようだ。きっと友達が一人も居なくて寂しかったに違いないと思っていた。
氏川は、正に透き通るような白い肌で、髪は真っ黒、鼻筋も通っており、確かに凄く綺麗なんだが、何処かただならぬ不気味さを持った女だった。家に入り俺の顔を見てうつむくなり、一度も顔を上げやしない。
「氏川さんこちら監督の神山さん。」
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