6人が本棚に入れています
本棚に追加
黙り込んで一向に喋る気配がない。鹿山はあたふたして落ち着かなくなった。俺もしかりだ。「氏川さん、どうしたの大丈夫?」
すると急に顔をむくっと起こし
「私帰るわ。とても無理よ。だってあの人、憑いてるじゃないの!」
言うなり立ち上がり、スタスタと出口に向かい、
「鹿山くんもその人と関わると危ないわよ。それじゃあ。」
と吐き捨てて帰ってしまった。
なんて失礼な奴だ!何が見えるか知らないが、間違い無く狂っているのは氏川の方だ。俺はアーティストだが常識は持ち合わせているつもりだ。アイツは何だ、こんにちわ!よろしくね?の簡単なご挨拶さえ出来ずに、人を見るなり憑いてるだの、気を付けろなど、第一印象で俺を全否定だ。
「噂以上にサイコだな?」
「いや、普段はもっとマシなんですけどね。神山さんなんか憑いてるんですか?」
「馬鹿野郎!んなもん信じた事もねぇよ。」
「ですよね。」
役者が決まらずに困った、困ったと、グダグダと喋り、酒を飲みながら二人ともいつの間にか寝てしまった。二、三時間は経っただろう。
「うわぁああ!」
急に鹿山が大声を上げて飛び起きた。
「おい!どうした?驚くじゃねぇか!」
計り知れない恐怖に、目の色を変えて
「神山さん憑いてますよ。やっぱり。」
「洗脳されやがって。馬鹿じゃないのか?夢だよ!夢!寝るぞ。」
チッっと舌打ちし、毛布に潜り込んだ。しかし、憑いてると言われては、やはりいい気はしない。気になってしまったのである。
「ちなみにどんなの憑いてた?」
毛布から顔だけ出して聞いてみた。
「狐ですよ。」
さっきと同じ姿勢のまま震ながら鹿山は答えた。
立ち上がり蛍光灯を付けた。
「ばかばかしい!」何が狐だ。憑くと言えば狐なんて、なんとも安直な想像力。俺は煙草をに火をつけ何気なく
「電気消したの?」と聞く
必要以上の大声でリアクションをして
「えっ!神山さんが消してくれたんじゃないんですか!?」「うるせえよ!そんな大声出すな。」
「そ、そんな、まさか、僕が先に寝たはずなのに、神山さんが消した記憶にないなんてきっと狐・・・」
「もういいよ!夢だよ!夢。何が狐だよ。」
暫く黙ったが、すぐ片手を上げ蛍光灯を震えながら指差し「コレは?」と言った。
「さぁ?」俺は答えた。
最初のコメントを投稿しよう!