序章

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序章

「――……いや……どうしてっ……!?」     静寂が支配する夜の街。それを破るかのように響いたのは、まだ幼き少女の震えた声。肩で息をする少女の身体は、頼りない街灯の下でも明らかに解るほどに傷付いていた。 少女は問う。未だ何故このような事になっているのかすら理解できないままに。 「どうして?……っお兄ちゃん」 「……どうして?」 感情のない声が闇の中から返る。 コツン、と小さな足音。 少女の目が大きく見開かれるのとほぼ同時に“それ”は少女の頬を霞めた。 瞬間できた傷により、頬を一筋の血が伝う。  「……っ!!」  「そんなの決まってる……」 声の主が姿を表す。赤銅色の髪を揺らし、少女を見据えるのは、兄と呼ばれた少年だ。あどけなさを残すその顔は、しかしまだ出来たばかりであろう左頬に走る二本の傷によって、無残にも真っ赤に染まっていた。 少女が後退る。それを詰めるかのように一歩踏み出しながら、少年は己の左手を見つめ呟いた。 「お前は……生きていてはいけないから、だよ」 少年の掌が微かに輝きを放ち始める。粒子のような小さな光が、幾つも少年の掌から溢れているのだ。“それ”は、みるみる大きくなり、野球ボール大の“光球”へと形を変えた。 「次は外さない」  氷のような冷たい視線が少女を射抜く。左手は少女を真っ直ぐに捕らえていた。       「――……シネ」       先程とは比べ物にならないほどの爆発と光が少女をつつんだ。            
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