透明なシークェンサー

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      「我ら造り給いし神、我ら救い給える神」 「我ら護る唯一の愛…?」 「そうそう。人間ってつくづく不思議な生き物よねぇ」  ただ荒れ果てた荒野ばかりが見える、そこは大地と空しか存在しない場所だった。荒涼とした風景は視界の端々にまで渡り、障害物となるものは一切見当たらない。  そんな中に、二つの人影が佇んでいた。……否。人影、と言うには少々おかしな風体である。  一人は金の髪に一対の純白の翼を背に生やした男と、もう一人は黒の髪に一対の漆黒の翼を生やした女。その両者の瞳は紅く輝き、それらが人間という生物ではないことを物語っている。  いや、今はもう、人間なる生物はこの世界には存在しないのだから、彼らが人間ではないことはわかりきったことなのであるが。 「僕達が人間を造ったわけではなく、哀れな人間を助ける事もない」 「神々は、人事には介入できないものね」 「そう。ただ、きっかけを与えただけ。君達が生物に破壊の力を与えるように、僕達は生物に創造の力を与えた」  そう言って、男は真っ直ぐに腕を伸ばす。胸の前に突き出された白い腕が、ふと、緩慢な動きで空を掴んだ。そして再び開かれた掌の中には、柔らかく優しい光が大きくなったり小さくなったり一定のリズムで律動している。  まるで生命の心の臓のようだと、思う者は今はもうここには居ない。  人間は、過ちを犯した。 「行き過ぎた繁栄は退廃と壊廃を招く。人間達は、自らの手で世界を壊してしまったんだよ」 「嘗ては楽園(エデン)とも煉獄(シェオル)とも呼ばれた世界は…今や何も無いんだもの」  哀れむかのような男の隣に寄り添って、女は彼の掌の上で律動する光に指を触れた。彼女の触れる指先から、白の光は黒の闇へと飲み込まれていく。  やがて黒く染まりきってしまったそれは、じわじわと繰り返していた律動を止め、最後には小さくなって消え去ってしまう。言葉を口にした後に楽しげな笑みを浮かべた女が、霧散した黒と白の粒子を思いながら呟いた。 「儚く脆く、けれど強い。そんな不思議な生物だったわ…。存在が消失してしまったのは惜しいこと」
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