試合

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「……始め!」 始まりを告げる音が鳴った。指を弾く音が少女の耳に届く。 「っセイ!」 少女が左足を軸に回転し、回し蹴りを放つ! 「ウォ!」 素早く両手で顔を守った少年は少し後ろに飛んだ。蹴られた腕の痛みを和らげる為に腕を振っている‥ 「つぅ~!篠宮<シノミヤ>!手加減しろ!……バカチカラガ‥」 最後に小声で悪態をつきながらもう一度構える。少女が不可解な微笑みを浮かべた。 「今の足だよ?‥それとね!」 篠宮と呼ばれる少女は体勢を低くし走る‥ 「フッ…甘!?アッ!?ゴッ!」 片方の拳は少年の顔に襲い掛かるが、騙された。一歩下がる少年の片膝に乗り、綺麗にシャイニングウィザードを決めた。少年は数メートル吹っ飛び……壁にあたって‥意識も飛んだ‥ 「誰が馬鹿力だ!馬鹿!」 綺麗に着地した篠宮は、鼻血を垂らして寝ている少年に指を向け大声で怒鳴っている……それを壁に寄りかかって見ていた少年。何事も無く、いつも通りに右手で十字を切り‥哀れみの心と共に祈っていた‥ 「黒十(クロト)‥せめて安らかに」 その呟いた祈りが篠宮の耳に入った、背格好の良い少年に顔を向ける。 「?‥佐野(サノ)何やってんの?」 いきなりの質問に軽く動揺しながら「何でもない」と答える佐野に疑問を抱き 「あんたも手合わせする?」 と微笑しながら聞く篠宮。佐野は冷静に‥ 「俺は『死合』はやらない」 と手を軽く振り、呟いた。篠宮には聞こえなかったらしいが、どうでもいい、とでも言うように寝ている少年に顔を向けた。 「?‥まぁいいけど…とりあえず、これ運んどいて。お願いね」 篠宮は、これ、と呼ばれる黒十と言う気絶した少年を指差し、後ろで束ねた髪をなびかせながら道場を後にした‥ 残された佐野は仕方なく、黒十の襟を掴んだ。移動するために引きずり‥呟いた‥ 「メンド‥ン?生きてるか?‥」 これが始まりだった。
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