【幼き原初の風景】

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明るく元気な子だった。     そのコロコロと変わる人懐っこい笑顔で いつもクラスの笑いの中心にいた。 笑うと 左頬に小さなえくぼができて それを少し気にしていた。   勉強は苦手ではないが 体を動かす方が好きな様だった。   休み時間のドッヂボールのチーム分けの時なんかは いつも彼女の取り合いだった。   僕も同じチームに入りたかったが 仲間に入れずに 教室の窓際から遠目でみているだけだった。   正義感と責任感に満ちていた。     一度、学校の帰り道でイジメを目撃した時なんかは 一回り体の大きい上級生を相手に 一歩も引かなかった。   僕はと言うと その後ろで殴られメソメソ泣いているだけだった。     自信に満ち溢れていた。     合唱コンクールではみんなに推薦されピアノを弾いていた。 小さい頃から両親にやらされていたのだと 少し照れ臭そうにはにかんだ。   僕はもちろん彼女と共に小さな楽団をまとめるコンダクターだ   …と言いたい所だが 残念ながら端っこの方でその他大勢に埋没していた。   真っ先に彼女が伴奏に決まってしまっていたので 指揮者に立候補したかったのだが勇気がなかった。 結局、投票でクラス委員の田中くんがやる羽目になった。 開票の際 黒板に名を連ねた何名かの中に 誰が書いたのか 一票だけ僕の名前が挙がった。   自分でいれたんじゃないか と責められる気がして 僕は内心オドオドしていたが 特に何もなかった。     正直音楽とかあまり聴かないし よく解らないのだが それでも彼女の演奏には心を奪われた。 きっと良い曲だったのだろう。   うん… きっとそうだ。   小学生だった当時から 彼女は輝いていた。
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