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「ううん、すっごくうれしいよ!めがみさまはほんとにめがみさまだもん!」
プラムは梅の雫に負けないほどキラキラとした瞳を、真っ直ぐにソプナリアへと向けていた。
「それに、春をつれてきてくれたでしょ!なんで、ごめんなの?」
ソプナリアはぽかんと口を開けていた。てっきりめがみさまの嘘つき!と言われると思っていたのだ。
「確かに、間違ってはいなかったものね…」
純粋な子供には敵わない、そう感じながら、女神は少女を抱き締めたのだった。
その後、町の人々によって盛大な宴が開かれ、ソプナリアが町を発つのは夕陽が沈む頃となった。
ソプナリアが散々足をとられた雪道も、地面が見えるほどになっている。
「もう行っちゃうの?」
町の入り口でプラムが寂しそうに聞いた。
「私の歌を必要としてくれている場所が、他にもあるのよ。
この町のように、冬が終わらない場所がね」
「…お花さかせにいくんだね」
「そう」
プラムの頭を優しく撫でてやる。今にも目から涙が溢れそうだ。
「いつか必ず、会えるから。それまで私の事忘れないで」
プラムが大きく頷いた。
少女の隣に立つ母親にお世話になりました、と礼をすると、ソプナリアは数歩離れる。
「…私は花と風を司る、常春のソプナリア。また会いましょう、プラムちゃん」
そう告げた直後、辺りが風が吹き抜ける。
風がおさまった時には既に女神の姿は無かった。
「またうめのお花、見に来てね!」
ぽろぽろと涙を流しながら、少女は空に向かってそう叫んだ。
届くかどうかも分からない純粋なメッセージは、風の音と共に夕焼け空へと吸い込まれていった。
END
春告げの歌
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