紫都留の日常―――

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「っ~~… 泉!来るのが遅すぎだっ!! お前があと30分早く来ていれば紫都留が危ないことをしなくてす がっ!」 「喚くな」  立ち上がって自分に怒鳴りだした兄を、彼女は見もせずに蹴り付け一言で黙らせると、私に思わず見入ってしまいそうな笑顔を向けて背中を押します。 「紫都留が朝食を作ってくれたんだな? 毎日悪いね」 「いえ…」 「ぐほっ!」  泉さんの前にうずくまっていた兄を彼女は当然のように(というより無いものと想定して)踏みつけて私の後に続きます。  この情けない姿を見ると、高校時代全国大会でも優勝し、鬼と恐れられた男だと言っても誰も信じないでしょうね…  どんな屈強な武闘家でも倒す兄が、同じ武闘家として絶対にかなわないのが泉さん  ま、泉さんが空手をやっていたのは10年以上前の話なんですけど  出会った頃からこんな感じで、兄が父や祖父について武術を習い始めたのも、私を守るためと泉さんに一度くらい勝ちたいという願いが籠っていたからなんです  でも見ての通りなんで、きっと一生かなわないんでしょうね (←サラッと酷い) 「へぇ 今日は洋食か… 珍しいな まあこの家には和より洋の方が似合うけどね」 「ですね 泉さんが前に仰ったんですよ? 『今度ぜひ外国映画なんかで見る朝の風景的な朝食が食べてみたい』 って」 「そんなこと言ったかな? ん~… まあいいか とにかく旨そうだ 早速いただくよ」  席に着いた泉さんに、彼女の好きなアッサムベースのキャラメルフレーバーティーを淹れて差し上げます。 「うん、いい香りだ…」 「おいこら泉っ! 何俺をさしおいて紫都留の作ってくれた朝飯食って… げっ!! 紫、紫都留? 今日は洋食か?」
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