紫都留の日常―――

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「はい 泉さんが食べたいって仰ったんで」 「い~ず~み~ お前は知ってるだろう!? 俺が洋食が大っっっ嫌いなこと!」 「女々しい事を言うな緋都騎 美味いぞこのかぼちゃのポタージュ 食わしてやろうか?」  甘い匂いがするトロリとしたポタージュをすくって、泉さんが兄に差し出します。 「やめろ馬鹿!」 「酷いな… 可愛い紫都留が頑張って作ってくれたのに…」 「はっ!」  ばっとこちらを振り返った兄は何事かを言おうとして口を閉じ、泉さんが差し出したままのポタージュを口にします。 「ぉ、おぇぇ…」 「お兄ちゃん! もう、無理しなくていいのに… あっちにお兄ちゃんの分のご飯用意してますよ」 「ゔうぅ… 情けない… 可愛い妹の手料理が食べられないなんて…」  私が彼を助け起こすと、涙を流しながらすまなそうに言葉を紡ぎます。 「美人の婚約者より可愛い妹か?」  あ、そういえば言い忘れてましたね  泉さんは兄の婚約者で、大学を卒業したら結婚式をあげる予定なんですよ 「うるっっさいわ! だいたい誰が美人だ!? だ・れ・が!!」  いつものように泉さんに向かって怒鳴る兄を、彼女は面白くないとでも言うように睨み付けて 「美人で可愛い婚約者だろう?私は 大切なお前のためにこんっな恥ずかし格好までしてやってるんだぞ?」 と言い放ちます。 「俺がそんな趣味でもあるような言い方をするな! まずな、身長175㎝以上ある、しかも切れ長の目で日本人離れした彫りの深い顔の大女がメイド服なんぞ着たってホラーにしかならないんだよっ!! しかも胸ないし… そういう可愛い格好は紫都留のような美少女が着て始めて輝くんだ!!!!」  はぁはぁと息を切らしながら兄が吠えると、泉さんの切れ長のエメラルドグリーンの瞳が細められます。 「お兄ちゃん!」 「あっ!」  言い過ぎたことに気が付いた兄は、ハッと口を押さえて青ざめていきます。
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