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夕暮れ時
吉原に灯りが燈りはじめる
遊郭が並ぶ通りの入口では、貧相な格好をした男共が中を伺っている
「かぁ~ッ…入りてぇなぁ」
「俺がもっと高給取りだったらなぁ…」
吉原の遊郭は身分の低い者がおいそれと入れるほど甘くない
代金が足りないのは勿論の事
綺麗に着飾った遊女と会うにはあまりにもみすぼらしい格好だからだ
「吉原一とまで噂された雪菜嬢に酌をされて飲む酒はきっと…さぞかし美味いんだろうなぁ」
「あぁ……
一度でいいから会ってみてぇ…いや、一目拝むだけでも…」
「はっ!お前等なんかが雪菜姉様に会える訳ないだろ?」
男達の後ろから威勢のいい声が聞こえた
男達が振り返った先には一人の遊女
「邪魔だよッ」
遊女の一声に男達はつい道を開けてしまう
―――――――
「ったく!なんだよ?あの女、どこの店の安物だ?」
「へっ、どうせ対した店じゃないぜ?
見たところ、着物も簪も安もんだったしな」
男達の会話が途切れると、背後から澄んだ高い声がした
「あの娘なら私と同じ、“弁天”の娘ですよ?」
男達が振り返ると、また遊女が立っていた
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