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「およめさん、ねぇ。あー、裕人が先にNYに行っててよかった。じゃねーと俺、殺されるわ」
唯も裕人も一生を掛けられるものを早くに見つけてしまった。
そしてわずか13歳の頃に、生涯をともに歩むパートナーにも出会ってしまった。
「俺にもいるのかねぇ、そんな相手が」
まぁ、娘同然の彩、でないことだけは確かだけれど。
所詮子供の戯言、とそのときはそう思っていた。
そう思っていたはずなのに――。
◇◇◇
画家の裕人とピアニストの唯は、俺たちがモラトリアムを謳歌していた18歳の頃には既に社会人として働いていた。
人よりも早くに結婚し、人よりも早く親となった二人は、それでも未熟な18や19の若者でしかなかった。
若すぎる二人が仕事と育児を両立させるのは始めから不可能だった。
というよりも、二人だけで育てていくつもりなど元々なかったようだ。
ましてや、二人よりもずっと忙しい彼らの実家が、孫の子育てを支援できるかといえば、それも限りなく疑わしかった。
だったらコドモなんか作るなよ、と臨月の唯が居ないところで裕人に苦言を呈したこともあったが、奴は明後日の方向を向いたままでぽつりと本音を漏らした。
「このタイミングじゃなきゃ、お前が暇じゃねーじゃん」
確かに今の俺は大学受験を終えたばかりなうえに、お互いに時間を拘束しあう『彼女』も居ない。
でも、だからといって――。
裕人は、呆れて何も言えないでいる俺に向かって、更に言い訳じみた説明を重ねる。
「タイミングを見て子作り、子育てなんて唯には一生無理だ。そんなタイミングが唯に訪れるわけがない。デビュー以来、あいつのマネージャーの電話は鳴りっぱなしだし、それはこれからも続く」
確かに、3年先まで唯の予定はびっちりと詰まっていると聞いたことがある。
「――で、お前は何が言いたいんだ?」
へらへらと笑う目の前の悪友に苛立ちが募る。
「お前に子作りをさせるわけにはいかないが、子育てだったらお前も手伝えるだろ?」
悪怯れずに宣(のたま)うその神経に、開いた口が塞がらなかった。
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