嘘と沈黙

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pipipi pipipi 携帯のアラームが鳴っている。 あ-、でも心なしかいつもより遠くで聞こえる気が…… 寝起きの頭でそこまで考えた瞬間に、日常との違和感が頭を掠め、意識が浮上した。 そして、右腕の痺れと左腕に感じる人肌の体温でその違和感は決定的なものとなる。 焦って腕の中のその体温を確認すれば、そこには無邪気に笑う彩が居た。 ――ああ、良かった。 ほっと、胸を撫で下ろす。 ――そうか、彩が戻ってきたんだったな。 そう認識して漸く、昨夜と今が繋がった。 殆ど下着も同然の服しか彩は身に纏っていなかったため、裸の女が隣に寝ているのかと思ってしまった。 一応弁明させてもらえば、いつもこんなハレンチな朝を迎えているわけではない。 ここ10数年、肌を合わせる女と朝まで居たことなんてないと、ろくでなしな自己弁護させて頂きたい。 彩を起こさないように、痺れた右腕をそっと抜くが、その微かな振動で、彩が僅かに身動(みじろ)ぐ。 生まれたての子犬のような声を発てながら、左手が離れた熱を求めて空を切る。 ――あ-、こんなとこも全く変わってね-のな。 唯と同じで、非常に寝起きの悪い彩だったが、俺が離れるといつもこうして、意識を半分だけ覚醒させたままに俺を探すのだ。 だから完全に寝付いたと思っても、立ち去れないままに、朝を一緒に迎えてしまう。 ――このままにしておくのも可哀想、か。 疲れるまで延々と続けるもんな。 ねこじゃらしのように、痺れていない左手を捕まえさせると、すりすりと頬に擦り寄せて、へらりと笑う。 ――あ-、猫みてぇ。 12年経っても、こんな無意識下での行動は何一つ変わっていなくて安心する。 ――寝顔なんて、3歳の頃から何も変わってねーじゃん。 このまま寝かせておいてやりたい気もするが、彩が起きないと俺もベッドから出られないからな……。 ――可哀想だけど、起こすか。 「彩、起きて」 ゆさゆさと揺するが、こんなもので寝汚(いぎたな)い彩が起きるはずもない。 「あーや」 ――一応、警告はしたからな。 耳元で柔らかい声を落とした後、脇腹に両手を這わせ、思いっきり擽る。 「や……ぁっ……ひゃぁっぅ……」 思いの外、甘い声が――愚息にダイレクトに響いた……のは気のせいだと思いたかった。
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