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今日は日曜日だった。俺は先週から彼女としていた映画の約束を守る為、朝からK駅に来ていた。
駅のホームは、日曜日ということもあって、朝から妙に賑やかだった。
この駅には二つのホームがある。東京を東西に横切る快速の、橙色の車両が止まるホームは、いつも通りに賑やかだったが、同じ路線を各駅で停車する、車体に黄色い線を引いた電車が止まるホームは、普段の姿とは違って、向こうとほとんど変わらない混雑を見せていた。
俺はそんな各駅停車の方のホームに立ち、呆れる位に多い人の群れに苛立ちながら、東京の中心駅であるS駅行きの電車を待っていた。
すると、俺の頭の中で、再び風の音が吹いた。
最近はいつもこうだった。俺が苛立った時に、不意に風が吹き始める。室内だろうと何だろうと、構わずに吹くその風を聞くと、俺は理性を失いそうな感覚に陥る。俺はその度に、まだ大丈夫だという、自分でも良く分からない言葉を頭の中で唱えながら、何とかその風に侵されずに済んでいる。
俺は今日も、まだ大丈夫だと頭の中で何度か呟くと、次第に風の音が弱まっていき、その内に男の声のアナウンスが聞こえると、目の前に目的の車両が姿を現した。
人々が停車した電車の入り口の両側に並び、人が降りるのと同時に乗り込む。
その時目の端に、降りる人の隙間を抜け、フライング気味に車内に入る人の姿を認めて、俺は小さな舌打ちをした。
小さな車内に許容範囲を越えた人々が乗り込む。俺は波に押される様に車内に入ると、老婆が座る席の前に身を落ち着かせた。
人が押し込まれる様に車内に雪崩れ込み、座っている人間以外の表情に余裕が無くなっていく。二三度、アナウンスで駆け込み乗車等の注意がされると、ドアの閉まる音がして、電車は走り出した。
その瞬間に、車内の人間は後方に振られ、不注意な奴が何人かバランスを崩した。互いが互いの身を頼りに立っている車内では、そのせいで大きく揺らめく事になり、俺も隣の人に押し倒される形で倒れ、しまいには足を踏まれた。
俺が何とか姿勢を直すと、目の前に座った老婆はまるで無関係と言う様に目を閉じている。
俺はそんな老婆に、理不尽にも苛立った。
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