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俺は老婆の顔面に目掛けて、膝蹴りを入れた。 鈍い音が車内に響き、周りの人が一斉にこちらに視線を送る。
老婆は鼻から血を流しながら、訳が分からないといった顔でこちらを見ていた。
俺は無言のまま老婆の顔に拳を放つと、朦朧とした目の老婆の顎を掴み、無理矢理に口を開かせる。そして開いた口の中に、勢い良く拳を捩じ込んだ。俺の拳は老婆の歯を二三本折りながら、粘着質に湿った老婆の口に納まった。
老婆はこちらに恐怖の視線を送りながら、声にならない声でうめいていた。その度に親指に当たる老婆の舌が、死ぬ程気持ちが悪かった。
俺はさっさと片付けようと、老婆の口の中にある拳を、勢い良く開いた。
ゴキンと、老婆の顎が外れる感触が腕を伝う。
老婆は半分白目を剥きながら、しかし意識はまだある様で、痛みにうめき声を漏らした。
俺は老婆の口から手を抜こうとしたが、何かに引っ掛かって上手く抜けない。無理に抜けば手を傷付けそうだったので、
「さっさと離せよ」
と言いながら、口の中に入れた手を思い切り老婆の身体の中へ押し込むと、老婆は大きな痙攣を三度程して、完全に白目を剥き、力を無くした。
俺は、そうなると案外すんなりと抜けた手を、老婆の裾で拭いて、窓の外に目を向けた。電車はまだ、動く気配を見せなかった。
「つ、捕まえろ」
今まで唖然と様子を見ていた乗客の一人がそう叫ぶと、俺の周りに立っていた何人かが俺を羽交い締めにして老婆から離し、パニックになった車内は騒然としだした。
「大丈夫ですか」
老婆の隣に座っていた若い男がそう声を掛けながら、老婆の肩を揺すっていた。
老婆はそれに答えず、ただ男が肩を揺するのに合わせて力なく首を揺らしながら、大きく開いた口から赤黒い血を垂らしていた。
俺はその様子を見ながら、もう遅いんだよと心の中で嘲笑すると、その感情が抑えられなくなり、ただ声を上げて笑った。
俺を羽交い締めにしている数人は、気味が悪そうに俺の腕や腰にしがみ付きながら、止めろといった事を叫んだ。俺は意に介さずに、抑えられない感情を笑いながら口から吐いた。
「ずっとこうしたかったんだ」
俺の股間は、その時、間違いなく勃起していた。
車内は騒然としたままである。
風の音は止まない。
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