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「君は何をやってるんだ!」
朝日に照らされた課長の頭にみとれながら、俺は説教を食らっていた。
「だから何度も言っている様に、電車で殺人が」
「そんな事はどうだっていいんだよ!」
課長は俺の言葉を遮って、こちらに唾を飛ばした。
俺はその唾を受けながら、でも拭ったらまた怒られるなと思い、嫌悪感を隠しながら、黙ったままでいた。
「君が遅刻したお陰で。え、こっちは大変だよ。君が取り付けた○○(自主規制)商事との会議がね。え、流れるところだったんだ。そこをね。え、私が何とか納めたんだよ。え、つまりだね。え、私がいたからいいものの。え、君。え、私がね。え、いなかったらね。え、……」
俺は、興奮し過ぎてもう何を言っているか分からない課長の声を無視して、さっきから耳にまとわりつく風の音に意識を向けた。
何なんだろうな、この風は。聞いていると嫌な予感が沸き上がってくるその音を聞きながら、俺は異常な興奮に感じていた。
「で、結局だね。え、その社長はね。え、一旦白紙にしたいとね。え、言い出したわけだよ」
課長はそこで一呼吸つくと、大きな溜め息と共に自分を落ち着かせた。
「君は何をやってるんだ!」
私はループした話し合いという名の押し付けにうんざりしながら、何とかこの無限の輪から抜け出す為の言葉を考えた。
「それで、自分の会議資料は」
「そんな物、とっくにシュレッダーだよ!」
課長は再び俺の言葉を遮った。
しかし今度の課長の言葉は、俺に大きな衝撃を与えた。
「シュレッダー?」
「捨てたんだよ!大体ね、君。私の話を聞いてたのかね。え、会議は中止に……」
俺はそこから先の言葉を聞けなかった。
頑張ったんだぞ。久々に、本気で。寝るのも惜しんで資料を作って、そのせいで寝不足になり遅刻して、通常業務に支障は出たが改心の出来だった。向こうの社長もそれを見て承諾したんだ。中止?誠意を持って話せば何とかなるだろ。大体、向こうはあんたみたいに分からず屋じゃない。遅刻の理由を説明すれば分かってくれるさ。なのに、捨てただと?
そんな事を思っている内に、俺の耳は、気付けば風が支配していた。
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