ド(低い音)

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 K駅から10分程歩き、I公園も過ぎた住宅街の狭間で、私はその焦燥感にいつになく襲われていた。耳障りな風の音が酷く大きくなり、理性と本能の境界線が薄くなっていく。わーっとなって叫び回りたい様な、何だか不愉快な気持ちになり、私は道の真ん中でしゃがみこんでしまった。  座ってしまうと、余計に葉のざわつきが五月蝿くなった気がした。周りには家屋が立ち並んでいるのに、300m程遠ざかった公園の森林が追い掛けてくる気分を味わった。上空から打ち下ろしの風が吹き付けてくる。  酷く寒く、酷く煩わしい。  「大丈夫ですか?」  私がそんな風に、震えながら踞っていたので、通りすがりの女子高生が心配して声をかけてくれた。その女子高生は全く今時といった雰囲気ではなく、きちんと制服を着た純朴そうなおさげの女の子だった。  私は何とか震えが治まったので、片膝を着いて立ち上がり、心配させてしまった礼を言う為に彼女の方に振り返った。  風の音は大分止んでいた。追跡してきた木々たちもあるべき場所へ戻った様に静かになっていて、ただ薄暗い住宅が、少し早出した月明かりと街灯に照らされてぼんやりと浮かんでいた。
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