ド♯

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 私の友人が殺された。それは無惨な死だったらしい。詳しくは聞かされなかったが、見ただけでは本人と判別出来ないぐらいであったと聞いた。  私は泣いた。彼女とは小学校から中学、高校と同じ学校に通い、家も近所である事からとても親しかった。同じ服を着て、同じ程度の成績を取り、同じ部活に入り、同じ人を好きになった。  まるで双子の様だと、互いの両親からも友人達からも言われ、私達もそれを嫌だなんて思わなかった。  だから、私は自分の半身を奪われた気分だった。心も体も、半分が無くなってしまった気分で、その断面に吹き付ける風が酷く染みた気がした。  それから私は、はっきりと塞ぎ込む様になった。  次第に学校に行く事も減り、部屋から出る事も嫌になった。  両親は、あんな事件があって外に出るのが怖くなったんだろうと思っていたみたいだが、そうではない。確かにきっかけはあの事件だが、そこに恐怖はなかった。  ただ、半分になった私の切り口に染みる風が、私を次第に狂わせて行くのを感じていた。自分が何をするか分からないという感覚があり、それが他人に危害を加える可能性の物であるのに気付いた私は、それを留めるつもりで部屋に篭ったのだ。  私の部屋には、既に悪意に満ちた絵が、そこら中にばら撒かれている。どれもこれも、鉛筆で描かれた、私の死体の絵だ。  バラバラになった私。高い所から飛び降りた様にミンチになった私。自分の首を胸に抱いた私。顔を切り刻まれた私。  その中でも一番のお気に入りが、身体中に穴を空けられた私の絵だった。掌と足の甲、それから胸と局部、そして顔を全て消してしまうかの様な大きな穴。そんな私が大の字で横たわっている。それはさながら、キリストの磔処刑の絵の様であった。  私は度々その絵を見ながらうっとりとした。友達は無惨な殺され方だと聞いたが、もしかしたらこんな風じゃないかとさえ思った。それならなんて素敵な殺され方なんだとも、私も彼女を殺した人に殺されたいとも。  こんな芸術的な殺害方法を思い付いた人に、私は殺されたい。そして友達よりも、私が絵に描いたどれよりも、美しく殺して欲しい。  私は部屋にいる一日を、そんな事ばかり考えて過ごす様になった。
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