ド♯

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 日に日にそんな感情が募っていく。私はそれに畏れながらも、それを望んでいた。  少しずつ私と、私じゃない何かの境界線が歪んで行く。風の音が聞こえ、その度に私の存在を奪って行く。  「ねえ、○○(私の名前)ちゃん。出て来てよ」扉を叩く音と同時に、母の声が聞こえてきた。「分かるわよ、怖いのは。最近、変な事件多いものね。この間も近くの高校でね、女の子が同級生を四人も殺したんですって。その前にも電車で同じ高校の男の子が、お婆さんを殺したって言うでしょ。そのお陰でその高校は問題になってるし。ママだって怖いわよ。でもね、そういう犯人は直ぐに捕まるの。△△(殺された友達の名前)ちゃんを殺した犯人だって、直ぐに捕まるわよ」  私は母のその言葉を聞くなり、風が強くなった気がした。  捕まる?捕まっちゃ駄目。まだ私、その人に殺して貰ってない。 しかし母は、私のそんな状況にも気付かずに、扉の向こうから無遠慮に話し続けた。  「証拠品も沢山あるらしいのよ。指紋とか、履いてた靴とか、それはもう沢山。だから、ね。その人は直ぐに捕まるの。そうだ、犯人が捕まったら△△ちゃんのお墓参りに行きましょう。○○ちゃん、初七日も行ってないでしょ。顔を見せてあげに行かなきゃ」  私は母の言葉を聞きながら、証拠品の事ばかり考えていた。  証拠品?彼が?あれだけ芸術的に人を殺せる彼が、証拠品を残した?それもそうか。どうでもいいものね、そんな事。私だって人を殺すなら、いちいちそんな事気にせずに、どうやったらその人を素敵に出来るか考えるもの。  私はその後も、ずっとそんな事を考えていた。  母はその間中、ずっと何かを私に話していたが、もうその声は聞こえなかった。強くなった風の音が耳を塞いでいたし、第一それどころじゃない。  彼が捕まるのを止めなきゃ。いや、止めなくてもいいけど、捕まる前に殺して貰わなきゃ。私の頭はそれで一杯だった。  私はほとんど、彼に恋をしてると言っても過言ではなかった。  私は強まる風に耳を澄ましながら、嬉しくなってくる気持ちを抑えられなくなっていった。
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