ド♯

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 私は夜を待って、そっと部屋を抜け出した。忍び足でこっそりと廊下を進むと、両親の寝室から母の寝息だけが微かに聞こえた。  耳の中では、未だに風が吹いている。ほとんどの音を打ち消す様に吹くその風は、しかし私が欲しい情報だけはしっかりと聞かせてくれた。  私はゆっくりと寝室の扉を開けると、忍び足で母が眠るベッドに近づいた。予定通りに父は出張で、母一人しかいなかった。  私は完全に母を見下ろせる位置までこっそりと近付くと、ポケットからスプーンを取り出した。  そして一気に母に跨がると、母の口を手で塞いだ。母はそれに気付いて目を覚ますと、私を戸惑った表情を見せた。  「ごめんね、ママ」私は手に持ったスプーンを母の目に近付けながら、心にも無い言葉を吐いた。「ちょっと死んでみてよ」  母は私の言葉に訳が分からない様子だったが、徐々に目に近付くスプーンを見て察したのか、急に抵抗を始めた。  私は抵抗する母を、大して苦労もせずに抑えられた。この時程、運動部に入ってて良かったと思った事はない。そして、父が出張で良かったとも。さすがに父相手だとこうも行かなかっただろう。  私は適当に母の抵抗をあしらいながら、スプーンを目に近付けた。母は目を見開いたまま、スプーンを見ている。  私はやり易いと思って、そのまま一気に母の目玉の下にスプーンを差し込んだ。  目玉はあっさりと取れ、スプーンの上に綺麗な球体のまま乗っかった。  その途端、母の抵抗が増した。口を塞いだ私の手の下で、母が唇を動かして何かを叫んでいる。私は何事かを母に呟いた。すると母は抵抗を止め、残った目を大きく開くと、驚愕の表情を見せた。  私はその間、耳の中を風が駆け巡っていて、母の呻き声も私が何を言ったのかさえ聞こえなかった。  私は、スプーンの上の目玉を放ると、母の顔に空いた洞窟に、再びスプーンを侵入させた。  奥に進ませると、骨と思われる壁に当たったので、私は母の脳へと進む方向を変えた。  するとスプーンの先に、中途半端な固さの物が当たった感触がした。私は宝を見付けたぞと喜んで、それをほじった。  瞬間、母が悶える様に身体をくねらせ悲鳴を上げた。私はその母の様子が可笑しくて、何度も何度も宝をほじった。母はその度に痙攣し、最後に大きく跳ねるとその動きを止めた。  私は可笑しくて、何度も何度も宝をほじった。  風の音は止まない。
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